企業に雇用されている弁護士などの法律の専門家は珍しくないですが、最近アメリカの生命科学関係の企業が、倫理学者を雇用しはじめているという話を聞きました。
このような倫理学者の職務とはどのようなものなのでしょう。
またこのような風潮に対し、アメリカ国内外での評価はどうなのでしょうか。
日本はとかくアメリカの動向に影響を受けやすいですが、日本の現状や今後の展望などはどうなのでしょうか。
両論を併記していただいてありがとうございます。
病院倫理委員会に院外委員を招聘する際、報酬をどうするかという問題に通ずるところがあるように思います。
報酬が発生する際の倫理的判断の公正性はどう担保されるのかということですが、できるかぎり活動を公開し批判の対象することで、公正性が維持されるはずと考えるべきなのでしょうね。
生命倫理学者の活躍するフィールドは、今後拡がることはあっても狭まることはないでしょうから、「社会をよくする」という方向さえ見失わなければ、企業に雇用される生命倫理学者も否定されるものではないと理解しました。
ご質問ありがとうございます。お返事が遅くなりました。
米国の状況について詳細はわかりませんが、ヒトゲノムの解析など生命科学研究のプロジェクトでELSI研究(科学技術の倫理的・法的・社会的課題の研究)に予算の一部が使われたり、製薬会社の倫理委員会に生命倫理学者が委員として参加するといったことが考えられるかと存じます。
最近も著名な生命倫理学者のアーサー・カプランがジョンソン&ジョンソンの新薬のコンパッショネート使用に関する倫理委員会の委員長になったという記事がありました。
日本でも多かれ少なかれ似た状況があるかと思いますが、生命倫理学の一つの源泉が消費者運動等の反権力・反体制的なところにあったことを指摘して、こうした「生命倫理の制度化」を批判する意見もあるかと思います。他方で、そういう形で生命倫理学者が活躍するのは、生命倫理学が社会的に受容された証拠だと考える立場もあるかと思います。私個人としては、社会をよくする方法はいろいろあると考えられるので、生命倫理学者はさまざまな仕方で社会とかかわっていくのがよいと思っています。
参考
Johnson & Johnson to seek bioethics advice on experimental drugs
http://www.cbsnews.com/news/johnson-johnson-to-seek-bioethics-advice-on-experimental-drugs/
米本昌平『バイオポリティクス』中公新書、2006年、終章