News
HOME > 生まれない方が良いか?

生まれない方が良いか?

投稿者:TS
2015年07月08日

「生まれない方が良いか」

これは、倫理学的には、どのような意味を示しているのでしょうか?

  1. 2015年07月08日  回答者:児玉聡

    ご質問ありがとうございます。これは、以前から倫理学の方でテーマの一つとなっている「人口問題の倫理Population Ethics」の一つの極端な立場で、人間は存在する(生まれる)よりも非存在(生まれない)の方が好ましいという立場です。

    その立場でも、大きく分けて二つの主張があり、一つは経験的な主張で、もう一つは概念的な主張です。

    経験的な主張は、悲観主義者の立場で、人生は概して快楽よりも苦痛(苦労)の方が多く、ときどき幸福であっても人生全体を見れば不幸なのだから、生まれない方がよい(あるいは、子どもを生まない方がよい)という主張です。

    これに対しては、人生には快楽の方が多いとか、仮に苦痛(苦労)の方が多くても人間は苦労は忘れる傾向にあるから人生全体を見ても幸福であるというような答が可能かと思います。

    概念的な主張は簡単に言えばこうです。人は他人に快楽(利益)を与えようとするよりも先に、他人に危害を与えないようにしなければならない。ところで、子どもを生むと、子どもは快楽も享受するだろうが、必ず苦痛が生じる。すると、子どもに快楽を与えるよりは、危害を与えないことが優先されるとすれば、子どもを生まないべきである。

    これについてもさまざまな議論がありますが、下記のサイトなどをご覧ください。

    森岡正博「「生まれてくること」は望ましいのか
    デイヴィッド・ベネターの『生まれてこなければよかった』について」
    http://www.lifestudies.org/jp/benatar01.htm

    なお、グローバルな環境問題によって次世代の環境が悪化することを考えても、一番よいのは我々の世代で滅びるべきではないかという主張があります(たとえばPeter SingerのPractical Ethicsの第3版で議論されています)。

    倫理学ではこうした議論も真面目に検討されていますが、基本的には理論的な是非を論じているので、こうした議論に触発されて軽率に実践に移すことのないことを願っております。

  2. 2015年07月16日  回答者:79

    この話題に興味を持ちましたので、横入り失礼いたします。
    1.このトピックにおける経験主義に反論する手立ての一つとして、何らかの形で快楽刺激を与え続けて、人生全体の快楽の総量を極端に大きくすれば問題がなくなるだろう、というものがあると思います。経験主義の立場の人はこれに同意するのでしょうか。
    2.このトピックの本質は、善悪の線引きに対して快楽/苦痛(快苦)の概念を厳密に適用した場合に何が起こるか、だと思います。他者に苦痛を与える・快楽より苦痛が上回る、これらを「悪」と見なして、悪を排除するためには「生まれてこない方がいい」という結論が出てくるのだと思います。
    となると、この議論に対して反論する場合、善悪の線引きに快苦よりも良い手段があるとか、快苦の概念の適用は不適切であるといった方針も取れるように思います。自分で考えた場合、この方針で良い反論が思いつかなかったのですが、議論は存在するでしょうか。

  3. 2015年07月17日  回答者:児玉聡

    ご質問ありがとうございます。

    一点目については、快楽説の立場に立つなら、理論的にはそのように快楽を与えることができれば、苦よりも快が上まわる生を送ることができるので、基本的に問題がないものと思われます。これは、選好に置き換えても同じかと思います。

    ただし、あらゆる種類の快楽や選好充足が幸せと結びつくわけではないという立場であれば、そのような形での快や選好充足は幸福の要素として認められないと応じるかもしれません。

    二点目については、選好充足説をとっても同じ議論ができるように思われるので(選好の満足よりも不満足の方が優先的に考慮されるため、人生では必ず一度以上選好の不満足が生じることは間違いないので生まれない方がよい)、快楽説だけの問題ではないように思います。

    以上です。

回答・コメント入力欄

* が付いている欄は必須項目です(メールアドレスは公開されません)。
  • 読みやすさを考えて、文字数は400 字以内におさめてください(最大800 字まで)。
  • 投稿の際には「ニックネーム」を指定できます。
  • 質問やコメントの掲載までに1 週間前後かかる場合があります。
  • 一度に多数の投稿をいただいても掲載できない場合があります。
  • 「生命倫理のひろば」の主旨にそぐわないコメントや以下の内容を含むものは掲載できません。
      ● 営利目的の情報 ● 不必要な個人情報 ● 人を不快にさせるような記述

    ※読みやすさの観点等から、コメントおよび質問の文言をこちらで修正することがございますので、
     予めご了承ください。

CAPEについて
ご挨拶
ミッション
応用哲学・倫理学
学内連携
国内連携
国際連携
関連する過去の活動
メンバー
伊勢田 哲治
上原 麻有子
出口 康夫
大河内 泰樹
児玉 聡
海田 大輔
大塚 淳
大西 琢朗
伊藤 憲二
マイケル・キャンベル
研究員
教務補佐員
運営委員会
CAPE Lecture・WS
CAPEレクチャー
CAPEワークショップ・
シンポジウム等
プロジェクト
生命倫理
環境倫理
情報倫理
研究倫理
実験哲学
ロボット哲学
宇宙倫理
分析アジア哲学
動物倫理
ビジネス倫理
教育・アウトリーチ
教育活動
入門書紹介
メディア
臨床倫理学入門コース
研究倫理学入門コース
出版物
出版プロジェクト
研究業績
single-square
生命倫理のひろば投稿

<生命倫理のひろばでのルール>

  • 読みやすさを考えて、文字数は400 字以内におさめてください(最大800 字まで)。
  • 投稿の際には「ニックネーム」を指定できます。
  • 質問やコメントの掲載までに1 週間前後かかる場合があります。
  • 一度に多数の投稿をいただいても掲載できない場合があります。
  • 「生命倫理のひろば」の主旨にそぐわないコメントや以下の内容を含むものは掲載できません。

     ● 営利目的の情報 ● 不必要な個人情報 ● 人を不快にさせるような記述

 ※ 読みやすさの観点等から、コメントおよび質問の文言をこちらで修正することがございますので、
   予めご了承ください。

回答者一覧

児玉 聡 ( 京都大学・文学研究科、倫理一般)
佐藤 恵子 ( 京都大学・医学部附属病院、生命倫理)
鈴木 美香 ( 京都大学・iPS 細胞研究所、研究倫理)
長尾 式子 ( 神戸大学・保健学研究科、看護倫理)

生命倫理のひろば 質問・コメント入力フォーム

※印は、入力必須の項目です。(お名前、ニックネームは、いずれか必須となります)
お名前
ニックネーム

※投稿の署名欄には「ニックネーム」を表示します。
「ニックネーム」の記入がない場合は、投稿の署名欄に「お名前」を表示します。
E-mail

※コメントの掲載についてご連絡する場合がございますので、メールアドレスは必ずご記入ください。

タイトル
コメント
ありがとうございました。ご入力が完了しましたら、【確認】をチェックして投稿ください。
上記内容を確認しました 確認

×