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動物倫理における虫の扱いについて

投稿者:79
2015年06月04日

H.ハーツォグ『ぼくらはそれでも肉を食う』の第二章で、日本人が虫をペットと見なすことを異質なものと見なすかのような記述がありますが(邦訳pp.65-66)、これは平均的なアメリカ人の感覚と理解して良いのでしょうか。また一般に昆虫(ムシ)を動物愛護の対象と見なさないことについて、異論はないのでしょうか(あるとしたらどのようなものでしょうか)。日本人にとっては、「一寸の虫にも五分の魂」という諺通り、虫でも尊重すべきものがあるという感覚があると思います。それが動物愛護に結びつくかどうかは別でしょうけれども。

  1. 2015年06月04日  回答者:児玉聡

    大変興味深いご質問ありがとうございます。昆虫に関するそのような態度は基本的に西洋的なものだと理解しております。
    (米国に関しては例えばスミソニアン博物館のサイトの以下のページを参照:Insects as Pets http://www.si.edu/encyclopedia_si/nmnh/buginfo/pets.htm )

    ただし、その顕著な例外としては、シュバイツァーの「生命への畏敬」という発想があり、昆虫や植物も道徳的配慮の対象となります
    (この点、伊勢田哲治先生にご指摘いただきました)。「生命の畏敬」についてはピーター・シンガーの『実践の倫理』(新版第10章環境)でも批判的に検討されていることを付け加えておきます。

    昆虫に道徳的配慮が必要かどうかという議論はそれほど進んでいないと思いますが(例えば『動物の解放』を書いているピーター・シンガーは魚介類への配慮については言及していますが、昆虫については全く言及しておりません)、昆虫が人間や哺乳類などの動物と類似した苦痛を感じるのであれば、功利主義の立場からは相応の配慮が必要だということになると考えます。昆虫が苦痛(あるいはそれに類似した感覚)を感じるかというのは現在昆虫学者の中で議論となっているようです。
    (参考:http://relaximanentomologist.tumblr.com/post/51301520453/do-insects-feel-pain )

    余談ですが、ジャポニカ学習帳の表紙から昆虫の写真が消えているという話が少し前に話題になりましたが、昆虫を気持ち悪いと感じるか可愛いと感じるかは、かなり「慣れ」の要素もあると思います。また、日本やアジア諸国では昆虫食の伝統がありますが、国連食糧農業機関(FAO)も昆虫食を重要なタンパク源として勧めており、これも慣れてしまえばありかと思います。むしろ、哺乳類や鳥類、魚類を食べるよりは倫理的な選択肢として真剣に考えるべきなのかもしれません。
    (参考:ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた!? http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4515
    FAO 昆虫の食糧保障 http://www.fao.org/3/c-i3264o.pdf
    食糧危機の救世主? 世界に広がる昆虫食
    http://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2014/12/1217.html)

  2. 2015年06月04日  回答者:佐藤恵子

    虫を飼育したりするのは、日本に限らないと思いますが、アメリカなどでは一般的ではないようです。私がアメリカに住んでいたときも、夏に親子が捕虫網片手に虫取りに興じている姿は見ませんでしたし、ホームセンターにカブトムシや虫かごが並んでいることもありませんでした。虫は興味の対象にはならないようで(もしくは嫌悪の対象)、それを好んで飼育する日本人の行動は奇異に映るのかもしれません。

    日本でなぜ虫を好んで飼育するのか本当のところはわかりませんが、一つには「自然に親しむこと」を目標のひとつとしている理科教育の影響があると思います。カブトムシやアリなどは手に入りやすく、飼育も楽で一生が短いため、子どもが動物の生態を観察するのに適していることなどから、初等教育のプログラムとしても取り入れられています。アメリカなどでの科学教育においては「動植物の観察」は積極的には取り入れられていないと聞きますが、小学校の授業などで扱うことは、子どもが虫に親しみを感じる大きなきっかけになると思います。

    虫が動物愛護の対象として見なされない理由は、短命であり、痛覚を持たない(苦しまない)というあたりが根拠と思いますが、虫がかわいいと感じる人にとっては、愛護の対象になっていると思います。

    日本で虫が好まれる理由は、日本人の美観にあるように思います。古来より、物語に書かれ、好んで歌に詠まれ、絵に描かれたりしておりますが、身近の小さな自然として、季節のうつろいを感じさせてくれる生きものとして、そしてなによりも「はかなさ」を象徴する存在として、親近感をもたれるのではと思います。「一寸の虫にも五分の魂」という考えは、これらの美観と、「生き物を無駄に殺してはいけない」という仏教の教えが習合してでてきたものと推察します。

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