「幹細胞研究ってなんだ」の改訂を待ってもおらず、
これほど早く出るとは思ってもいなかった、
私も含めた全国のみなさま、第二版が出ました。
第一版は、ひっそりとネット上に掲載したのですが、
多くの方がダウンロードしてくださり、
「学校の講義や研究施設の研修に使用しています」などの
お知らせをいただいたりして、
少なくとも研究費や紙の無駄遣いではないようだと
胸をなでおろしております。
第二版作成のきっかけは、第一版がわかりやすい内容になっているかどうか
高校生や一般の方に読んでもらって確認したいと考えていたところ、
第一版をお読みになった高校の先生より、「授業で使いたい」という
渡りに船のご提案をいただいたことがひとつ。
もう一つは、第一版の印刷版を準備している頃に起きた
STAP細胞の件について、
研究のコミュニティとして記憶にとどめ、
建設的な何かにつなげたいと行ったり来たりしている中で、
「この機会に、STAP細胞の件について言及したらどうか」と
監修をしてくださった先生方をはじめ、
いろいろな方からご助言をいただいたことです。
問題が根を下ろしている土壌や空気を含め、
研究者の方々と対話したことをまとめ、
第二章の最後に「⑥科学と社会の関係は」として加筆しました。
理化学研究所に在籍されていた核物理学者の朝永振一郎さんが
ご著書「科学者の自由な楽園(岩波文庫)」の中で、
科学のありようを語り、それが政治や経済などにより
望ましくない方向に変容することを危惧していたこと、その中で
研究者が自律することの大切さを述べていたことを思い出し、
朝永さんが危惧したとおりの道筋をたどってしまったことを実感し、
過去はともかく、これからどうリベンジするかを考えねばと思いました。
それはじっくり腰を据えてやることにして、
ご縁をいただいた笹井先生のことは胸にきざみつけておこうと思います。
笹井先生は、私に理化学研究所での生命倫理セミナーで講演する機会を
与えてくださり、「おもしろい講演だったよ、ありがとう」と
満面の笑みで言っていただいて、うれしかったことを覚えています。
先生の研究も、ES細胞から立体構造をもった器官ができたとか、
やたら「へぇ」でわくわくするような内容で、
同じ時空を過ごすことができたこと、
そして、生命医科学の発展を牽引する大きな足跡を残され、
その楽しさを提供してくださったことに、感謝します。
笹井先生が、どこかで朝永さんにお目にかかったら、
どんなお話をされるのやら、などと思いつつ、
ご冥福をお祈りします。
佐藤 恵子(ワーキンググループを代表して)
2016年2月12日