10月4日(日)の京大アカデミックデイ「研究者と立ち話」における私たちのポスター展示(生命倫理勝手連「ゲノム編集技術からみた、遺伝子改変」は、マニアックな内容にもかかわらず、多くの方々に足を止めていただきました。ありがとうございました。
生命倫理勝手連は、生命倫理の課題について、理論的な検討から、政策への提言、現場で実践できる知恵や具体策の提言を行うことを通じて、問題を前進させたり、解決の枠組みを作るなど、勝手に考えて提案する集団です。生命倫理の課題は、生命や生活に直結しますのでので、たとえば新しい技術を「誰がどのように使ってよいのか」を考えるとき、ステークホルダーである一般市民の意見も取り入れて反映させる必要があります。しかし、課題の内容が難解であれば、まず内容を理解できるように説明した上で、きちんと考えていただいて、表面的な好き嫌いではないご意見をいただく必要があり、これを実現するにはスキルも資源も必要です。
勝手連では、2015年の4月頃に中国のグループがゲノム編集技術を受精卵に適用して遺伝性疾患の原因遺伝子を働かなくする研究を実施したことが話題になった際、遺伝子改変技術をどのように使用すべきか、検討することにしました。研究者中心の研究会を何回か開き、意見交換しましたが、「一般市民の意見をお聞きしたいね」ということで、アカデミックデイに出展することにしました。
当日は、鈴木、田中、佐藤がポスターの前でみなさんとお話しさせていただきましたが、隣のブースは「クマムシ」の女子高生のグループで、ふだんは飄々とした田中さんがアドレナリン全開の模様で、「いいね、若いってのは」と思いました。
足を止めてくださった方は、ゲノム編集について「聞いたこともない」という人から、「育種の会社にいたので、知っています」という人までさまざまでした。私たちは、遺伝子改変の歴史的な背景からゲノム編集、現在の利用の状況、今後期待されることや予想されることなどを説明した上で、植物、動物、人の生体、受精卵に対する利用について、受け入れるかどうかについて、青と赤のシールで意見を表明していただきました。
34人の方々のご意見を聴取することができ、集計結果は以下のホームページに掲載しましたので、アクセスしてください。
応用哲学・倫理学教育研究センター 生命倫理プロジェクト
概要は、植物・動物については、食品としての遺伝子改変は認めるという意見が大半であり、ゲノム編集技術を含む遺伝子改変技術で珍しいペットをつくるのは半数の人が反対、チンパンジーの知能を上げるなど能力増強に使うのは多くの人が反対を表明しました。人間については、個人に対する治療としての応用はよいが、能力増強目的で使うのは多くの人が反対でした。同じ人間でも、受精卵での遺伝子改変については、研究目的は約9割が受け入れるという意見でしたが、治療目的については半数が反対、能力増強の目的では、大多数の人が反対を表明しました。
受精卵への適用に半数の人が肯定的だったのは意外でしたが、「重篤な遺伝性疾患をなくすことができるのならその方がよい」「自分は使わないけれど、社会として選択肢が増えるのはかまわない」という声が聞かれました。一方、反対する人は、「どこまで研究が進んでも安全性は担保できないだろう」「病気がないのはよいことだと思うが、おおもとである受精卵の遺伝子には手をつけない方がよいのでは」という声が多かったです。京大のアカデミックデイに見えた方のご意見で、研究や科学に興味を持っている人たちですので、一般化はできませんが、みなさんの考えが見てとることができて大変有益でした。
質問項目が計17問と多かったにもかかわらず、みなさん本当に真剣に考えてくださり、「いずれも条件付ですけどね」とニヒルな微笑みを浮かべながらイエス・ノーのシールを貼ってくださったにいさんもいれば、「遺伝子組換え食品は必要ないけど、遺伝性疾患を何とかできるのだったら使いたい。矛盾してるわね、私」とおっしゃるねえさんもおられました。そして、科学系の会社勤めのにいさんとは、「100年後の人たちに、“技術が出てきた、あの時点できちんと対策をたててくれたらよかったのに”と言われないように、真剣に考えることが必要ですね」という結論で一致し、市民との対話が大事であると実感したのでした。
足を止めてくださったみなさま、ありがとうございました。また、さまざまな専門領域での遺伝子改変の研究についてご教示くださった研究者のみなさまにも感謝します。総合大学ならではの利点を最大限に生かしつつ、生命倫理勝手連では引き続き検討し、何らかの考えを示せたらと思いますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
佐藤恵子