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卵子提供を頼まれたら

投稿者:30代女性
2015年08月13日

子もちの友人が、長年不妊治療をしている(海外在住の)身内から卵子提供の依頼を受け、悩んでいます。頼まれた彼女の判断のよりどころ、ポイントとして、どういうことがあるのでしょうか?アドバイスをお願いします。

  1. 2015年08月13日  回答者:児玉聡

    ご質問ありがとうございます。いくつか考えるべきポイントを
    挙げてみたいと思います。

    まず、その国の制度を確認する必要があるかと存じます。匿名第三者からの卵子提供は、日本でも少し前に問題になりましたが(下記1参照)、身内(家族)や知り合いからのボランティアの卵子提供に関わる法制度について確認されるのがよいかと存じます。原則として卵子提供や出産を行う国の法律が適用されるので、よくご確認ください。

    次に、卵子提供に伴う健康リスクについて医師等によく相談するのがよいかと存じます。少し前にeggsploitationというドキュメンタリー(下記2参照)で卵子提供の問題が批判的に論じられておりましたが、排卵誘発剤の使用などに伴なう母体への健康リスクについてよく知っておく必要があるかと存じます。

    第三に、匿名第三者ではなく親族が卵子を提供することに伴う問題があるかと思います。卵子を提供して子どもが生まれると遺伝上は自分の子どもということになるため、仮に法的には自分の子どもでなかったとしても、ドナーの女性と、産んだカップルとの関係が大きく変容することが考えられます。今後も良好な関係を保つことができるか、よく考える必要があります。

    第四に、上記の点と関連して、子どもに卵子提供の事実を伝えるかどうかも問題になるかと思います(これは子どもの出自を知る権利についての法制度も確認する必要があります)。第三の点や第四の点は、身内とはいえ、事前にしっかり取り決めをしておかなければ、あとで関係がこじれる恐れがあるかと存じます。

    最後に、以上のように述べてきましたが、私は不妊治療としての卵子提供に反対しているわけではないので、上記のリスクや問題をよく考慮したうえでなら、身内を助けると思って卵子提供をやってみてもよいのではないかと思います。もちろん不妊治療をしているカップルは、不妊治療で相当の苦労し、また養子等の選択肢も考えられたうえで、あえて身内の方に頼もうとしているのだと想像します。子どもをもちたいという切なる望みを助けることができるならば、大きな障害がないかぎり、そうしたらよいのではないかと存じます。

    以上ですが、卵子提供の際にはカウンセリングを受けるなど、上記の点やその他の心配事について十分に相談することをお勧めします。

    1 匿名の卵子で体外受精 国内初、神戸の団体仲介
    神戸新聞NEXT 2015/7/27
    http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201507/0008248965.shtml

    2 eggsploitation
    http://www.eggsploitation.com/

  2. 2015年08月13日  回答者:佐藤 恵子

    身内からの卵子の提供を受けることは、日本産科婦人科学会の指針では容認されておらず、国内では一部の医師が実施しているという状況ですが、渡航して海外で卵子を提供するという仮定で考えてみます。卵子提供をお願いされている人をY子さん、その身内で卵子をほしい人をA子さん、卵子提供で生まれた子どもをBちゃんとします。

    結論から言うと、Y子さんがA子さんに卵子を提供して、自分の遺伝子をもつ子どもがA子さんの子どもとして存在してもよい、A子さん(とご家族)に力を貸したいと思えるのでしたら提供するし、そうでなければやめた方がよいと思います。身内からの卵子提供は、よい面もありますが、関係が近いだけに何かの問題があってこじれたときはかなり気まずい状態になる可能性も懸念されます。Y子さんが現在どのようなことを心配されているかわかりませんし、Y子さんとA子さんとの関係もわからないので、一般的に考えられる内容にとどまりますが、卵子を提供したときとしなかったときの予測されるリスクや利益、心配ごとを考える必要がありますので、以下に述べます。なお、コストも問題ですが、A子さんがすべて負担すると仮定して、コストの問題は除外しています。法的な問題についても、BちゃんはA子さんの子どもであり、Y子さんとBちゃんはおばと甥姪の関係であると仮定します。

    1) 卵子を提供した場合
    ① Y子さんのリスクや利益など
    卵子を提供する際の身体上の問題として、排卵誘発剤によるリスク(卵巣過剰刺激症候群)があるのと、時間や手間がかかることがあります。1回の手技で採卵できるのは8~10個くらいと言われていますので、これで妊娠が成立しない場合は、再度採卵をするかどうするか、といったことを決めておく必要があります。
    子どもが生まれてからの問題として、Bちゃんは生物学上「Y子さんの子ども」になりますので、それを意識することによる何らかの心理的な影響・負担(Y子さんの家族も含めて)がある、Bちゃんに何か問題があったときや、Bちゃんに類い稀なる優れた能力があったときなども、何らかの感情をもつ、それらが原因で関係が複雑になるといった可能性が考えられます。
    利益としては、「A子さんに子どもを持たせてあげることができた」と思えることが挙げられます。

    ②A子さんのリスクや利益など
    A子さんには、他者の卵子で妊娠するので、リスクが多少高くなるということがあるようです。また、身内の卵子で妊娠することを希望されているわけですから、他人の卵子での子どもをもつよりも満足感が大きいという利益があると予測されます。その反面、Y子さんに恩義を感じ続けることになりますが、それが不利益になる場合もあると思います。

    ③Bちゃんのリスクや利益など
    現在、匿名の精子の提供を受けて生まれた子どもが出自を知ることができずに悩むという問題が起きていることを考えると、Bちゃんには、生物学上の母はY子さんであることが伝えられることが勧められます。しかし、そのことでBちゃんや家族の心理に何らかのよい影響またはよくない影響がある可能性があります。

    2) 卵子提供をしない場合
    ①Y子さんのリスクや利益
    上記の身体上・精神上のリスクはなくなります。A子さんとの関係にもよりますが、A子さんに対して申し訳ないという感情を持つ可能性もあります。

    ②A子さんのリスクや利益
    身内の卵子による妊娠ができなくはなりますが、日本人の卵子を提供している機関もありますので、そこを利用するということはできます。

    ③Bちゃんのリスクや利益
    Bちゃんにとっては、生物学的な母親がA子さんではないことにはかわりないですが、身内(Y子さん)でない方がむしろよいという時もあるように思います。

    懸念されることを予測であれこれ並べておりますが、本当のところは、実際に始まってみないとわかりませんので、予想しきれなかったことや思いがけないこと(よいこともよくないことも)が多々あります。Bちゃんが生まれたときは、家族の関係は通常の家庭よりも(おそらく)複雑になりますが、それにもよい面とよくない面の両方があるでしょうし、人間のありようは本当にいろいろで、実の親子であれ(実の親子だからこそ?)、「絵に描いたような理想的な家庭」などあるわけないですので、気にすることでもないようにも思います。

    ですので、繰り返しになりますが、予測不能な部分も含めて引き受けたくないとY子さんが思うのであれば、提供をお断りするのがよいでしょう。しかし、Bちゃんの誕生がよいことと思われ、まわりの人がBちゃん自体の利益を守るべく努力し、Y子さんが「いろいろな出来事を前向きに捉えよう」という心づもりを持てるのであれば、提供してもよいのではと思います。

  3. 2015年08月13日  回答者:鈴木美香

    児玉先生、佐藤先生がコメントされたことに、少しだけ加えたいと思います。

     卵子提供する際の身体上のリスクという話がありましたが、日本生殖医学会「第三者配偶子を用いる生殖医療についての提言」1)では、提供する側の要件として、「卵子提供者は、35歳未満の身体的、精神的に健康な成人であることを要し、原則として被提供者に対して匿名の第三者を優先する。」と記しています。また、提供される側の要件についても提言していて、「卵子の提供を受ける女性は、患者の体内に卵子が存在しないか、存在しても卵巣刺激に反応しないなど医学的理由が明確で、かつ法律上の夫婦に、現時点では限定すべきである。また、要件として、a)機能を有する子宮を備える、b)妻の年齢は45歳以下、c)健康状態が良好であり、出産・育児に支障がないことを必要とすることを提案する。」としています。この提言には、身体的リスクに関する医学的な視座が多く含まれていると思います。何よりもまず、Yさん、Aさんそれぞれの身体的なリスクの点を充分に再確認、再検討する必要があると思います。

     また、佐藤先生がご指摘されている生じうる懸念事項については、特に、提供しようとする際には、「あらかじめ」(事前に)、Y子さん、A子さん、そしてそれぞれのご主人(また必要に応じてその他のご家族)も交えて話しておく必要があると思います。生物学上(遺伝上)は、Y子さんと、A子さんのご主人はカップル(遺伝上の親)ということになりますので、そういった事実をどのように受け止めるかといった「気持ちの問題」にも向き合う必要があると思います。また将来、Bちゃんに対して卵子提供の事実を伝えるか否かについては、事前にさまざまなケースを想像し、方針を決めておく方がよいように思います。もし隠そうと決めた場合でも、簡単な血液型の検査などから(場合によっては検査をしなくても)、「どうも何か違うようだ」ということをBちゃんが察することがあるかもしれません。またYさんにはお子さんがおられるようですから、Y子さん自身のお子さんにも、「BちゃんはY子さんの卵子を提供して産まれた」ということを伝えるかどうかも検討しておく必要があるかもしれません。
    あらゆる可能性を検討し、すべての関係者が「これでよかった」と思うことができる選択になることを願ってやみません。

    最後に、私自身が感じている社会的な課題を添えます。不妊治療をされている方の背景にある心理的負担のひとつに「結婚したら子どもが産まれてあたりまえ」と考える風潮があると感じています。夫婦の中には、別の疾患やその他さまざまな理由で、不妊治療を受けることすら断念する方もおられるでしょう。新しい技術や社会制度により、子どもをもつことが可能になる世の中が実現するのと同時に、子どもをもたない生き方も当然の選択肢として認められる世の中になればと願います。

    1)日本生殖医学会「第三者配偶子を用いる生殖医療についての提言」
    http://www.jsrm.or.jp/guideline-statem/guideline_2009_01.html#04

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