HOME > 生命倫理 > 佐藤恵子先生によるアカデミックデイ挨拶文

アカデミックデイ・勝手連ポスターへの訪問ありがとうございました

9月28日(日)の京大アカデミックデイ「研究者と立ち話」における私たちのポスター展示(生命倫理勝手連「医療や科学技術の倫理について考える」)には、高校生からリビングウィルをお持ちという先輩まで、多くの方に足を止めていただきました。ありがとうございました。

生命倫理勝手連は、生老病死のあーんなことこーんなことについて、理屈をこねくりまわしたり、理屈を実践の場に生かせる仕組みを作ったりするなど、勝手に考えて提案する集まりです。いつもは世間離れした研究室に集まって仲間うちで、あーだこーだ勝手に話をしているのですが、今回、アカデミックデイなるものに参加すれば、市民のみなさんと交流する機会をいただけるということで、出しゃばってみることにしました。
せっかくですので、「生命倫理の課題についてご意見をいただこう」ということになり、巷でも話題になっている
1)代理出産(病気などで子宮のない女性とその配偶者が、自分たちの受精卵を別の女性の子宮に移植して子どもを産んでもらうこと
2)終末期における延命治療の中止(臓器不全などがあって何もしなければ間もなく亡くなる人に生命維持の措置をした場合に、それを中止して死にゆかすこと)
の2つをお題として選びました。
当日は、勝手連メンバー(児玉、鈴木、田中、佐藤)が、ポスターの前でみなさんと対話しながら意見を交換しました。

1)代理出産について
代理出産については、最近、タイ人の女性が代理母として障害をもつ赤ちゃんを産み、オーストラリア人の依頼夫婦が引き取りを断った件や、日本人男性がタイで代理出産により多くの子どもを出産させた件などがニュースになっていたこともあり、ほとんどの方は「代理出産」という言葉や、その技術の内容を把握されておりました。
代理出産に反対の方は「妊娠出産のリスクを他人に負わせること」「途上国の人が生活費のためにお腹を貸す、裕福な人がそれを利用すること」などを反対する理由に挙げられていました。一方、賛成の方は、「自分の子どもをもつということは誰にでも可能性は平等であるべきだし、その希望はかなえてあげたい」「搾取の防止など歯止めがあればなんとか可能ではないか。できれば日本の中でそれができるようにしては」「技術があるなら、使うべき」といった意見が挙がりました。
意見を表明してくださった方35名のうち、「日本で認めてもよい」は19名、「認めない方がよい」は15名でした。

2)終末期における延命治療の中止について
終末期における延命治療の中止については、「日本では延命のための装置は、一度つけてしまったものをはずすと殺人になる可能性があるため、本人の希望があって医療者も家族もやめた方がよいと思っていても、医療者が中止できないという状況をどうしたらよいか」という問いかけをしました。
「本人の意思が書面になっていたとしても治療を中止できない」と聞いて驚く方がおられる一方、家族や知り合いの終末期医療に立ち会った経験がある方も多くおられました。ほとんどの方は「亡くなることが明らかな状態であって、本人の意思がわかる場合は、中止してもよいのでは」というご意見でした。
意見を表明してくださった44名のうち、「中止してもよい」は41名、「中止しない方がよい」は3名でした。

いずれも難しい問題で、簡単に答えが出るものではありませんが、技術や状況を正しく把握して理解してもらい、いろいろな考え方とその根拠を示しながら説明すると、それぞれの方が考えて意見を述べてくださいました。そして、反対意見や違う視点から問いかけるとまた悩んでくださったり、「基本的に反対だけど、認めてあげたい気もする」というような意見を述べてくださる方も多くおられました。
生命倫理の問題に限らないと思いますが、生老病死にかかわる難しい課題は、理屈だけで割り切れるものではなく、心情も配慮すべき大事な要素であり、また、一人の人の中でも矛盾した考え方やためらいの気持ちがあったり、「答えを保留しておきたい」という人もおり、たいへん複雑な様相を持っていることがよくわかりました。実際に、お話をしている途中で涙を流される方もおられましたし、「この場の直感でどちらがいいか、賛成・反対を結論づけることはできません」とおっしゃり、投票せずの方もおられました。そして、この複雑な様相は、単純化するのではなしに「複雑なままで」理解しないといけないということを実感しました。これは、「イエスかノーかをたずねるアンケート」で導き出すことは難しくで、「対話」という方法で可能になることではないかと思います。

また、ある方が「生き死にの問題は自分にかかわることですし、一人ひとりが考えないといけないのですが、なかなかできないですね。このような機会がもっとあるといいです」という感想を述べてくださいました。アカデミックデイにいらっしゃる方々は、意識の高い方々であるというバイアスがありますが、複雑で難解な技術について一般の方に考えていただくには、わかりやすい情報の提供、解説、補足説明ならびに意見や感情を引き出す「問いかけ」などが必要であることもわかり、大きな収穫でした。

人々と「対話」をし続けたギリシャの哲人ソクラテスは、その昔、「人心をまどわした」という理由で毒杯をあおる羽目になりましたが、私たちは、みなさんと対話することの大事さと同時に、楽しさも実感しました。日本では、生命倫理の領域ではこれまであまり市民との「対話」という取り組みはされてこなかったと思いますが、一人ひとりの日々の生活に直結することであり、問題を前進させるためには市民の意見を取り入れることが不可欠です。今回のような一回限りの試みではなく、持続した対話ができる仕組みを作ることができればいいね、そうじゃ、まったくじゃ、と一同、意見が一致したのでした。

私たち勝手連の取組みそのものに大変興味を持ってくださった方にも出会えたこと、そしてみなさんとの対話が私たちの活動の原動力となったことは間違いありません。

佐藤恵子

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回答者一覧

児玉 聡 ( 京都大学・文学研究科、倫理一般)
佐藤 恵子 ( 京都大学・医学部附属病院、生命倫理)
鈴木 美香 ( 京都大学・iPS 細胞研究所、研究倫理)
長尾 式子 ( 神戸大学・保健学研究科、看護倫理)

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